需要が高まる「内定辞退代行」

内定辞退のマナー?

内定の辞退にも民法六二七条一項が適用されます。

【民法六二七条一項】

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

つまり、入社の2週間前までであれば、なんの問題もなく辞退することができます。それでも、多くの学生が内定辞退に直面すると、躊躇したり思い悩んでしまいます。内定辞退がストレスになる主な原因は「内定承諾書」の存在です。

内定承諾書に法的拘束力はまったくありませんが、社会人経験のない学生を萎縮させるには十分です。「承諾書にサインをしてしまったから、もう辞退できない……」と誤解している学生も少なくありません。

「マイナビ」、「リクナビ」などの就職ポータルサイトが、内定辞退の専用フォームを作れば、内定辞退の心理的負担のほとんどは一発で解消します。しかし、就職ポータルサイトでは、次のようなふるまいを推奨していて、内定辞退をストレスフルなものにさせているのが現状です。

内定辞退を企業に伝える場合は、まず採用担当者に電話で伝え、その上で直接おわびに行くのがマナーです。辞退の理由を聞かれますので、「他社から内定をいただいたため」と、企業名は伏せた上で、正直に理由を伝えるのが望ましいです。

さらにこのあと、郵送でわび状を送るのが社会人としてのマナーです。正式な内定日である10月1日前に取り交わした内定誓約書などの書面には法的な拘束力がなく、内定者から申し出て内定解除をすることができます。たとえ法律上で許されているとはいえ、一度締結した契約を反故にするのは企業にも影響をあたえてしまいます。

よほどの事情がない限りは、内定誓約書を提出した企業へ入社する道を選択するのがよいでしょう。
(リクナビ『新卒採用のリクナビ〈内定後やらなければいけないこと〉内定辞退の対応方法』より)

ここで説かれる「社会人のマナー」に白々しさを感じてしまいます。

就活は本来、企業と学生がお互いを選び合うもののはずです。内定が出ないということは、企業の評価基準に合わなかったということです。

一方、内定辞退は企業が就活生の評価基準に不合格だったということです。不採用だった場合、多くの会社は通知をしてくれません。あったとしても、コピペの一斉メールです。だとしたら、内定を辞退するとき「御社のご発展をお祈りいたします」と、学生から「お祈りメール」を送ってもいいくらいだと思ってしまいます。

2019年、リクナビは、サイト内で集めたデータをもとに就活生の内定辞退の予想確率を計算し、無断で企業に販売していたことが発覚しました。つまり、就職ポータルサイトにとって、なにより大切なクライアントは企業だということです。企業のほうを向いてサービスをしているサイトの説く「マナー」など、真に受けなくていいでしょう。

内定辞退は先に「届出」

内定辞退の代行も退職代行とその方法に大差はありません。違うのは、電話と書類通知の順番が逆になることくらいです。

退職代行の場合は、まず会社に電話をして、そのあとに退職届が届くようにします。

しかし、内定辞退の場合は、まず先に内定辞退届を簡易書留で送付し、追跡番号で会社に到着したのを確認してから電話をかけます。入社日が間近な場合など、依頼者が希望すれば先に電話をしますが、基本は、届出→電話の順番です。

先に電話をすると、電話だけでは、なりすましの可能性がぬぐえません。本人確認が必要になり、結果、依頼者に何度も着信があったり、自宅訪問の可能性が生じてしまうのです。

退職の場合は数日間、すべての電話を無視すれば済みますが、就活生の場合、他社からの電話もありますから、知らない番号からの着信に一切出ないというわけにはいきません。

また、依頼者からすれば、相手先の会社がどういう反応をしたかは知りたいものです。電話連絡をあとにすることで、依頼者にきちんと報告することができます。

内定辞退届の文中には、「到着日に○○会社から、電話にて説明の連絡がありますので、そちらをお待ちください」など入れるといいでしょう。

内定辞退に憤るモンスター会社

「なんか、言いにくい」という理由で、内定辞退代行を利用する学生もいますが、多くが、「自分ひとりではとても言えない」と感じている内定者です。

そもそも、内定辞退は認められているものですし、誰にでもできるものです。書類の発行や引き継ぎなどの手続きは必要ありませんし、内定辞退届さえ送ってしまえば済む話です。会社側も「入社しない」と言っている以上、諦めるしかなく、多少不愉快そうな態度をとったとしても、それで終わるのが普通です。

にもかかわらず、代行に依頼するというのは、第三者の目がなければ、よほどムチャクチャなことを言いそうな会社の場合です。

モンスター会社の確率が高く、実際、内定辞退の代行時には理不尽に怒られることが多いものです。言われるのは、主にこの3つです。
「内定辞退は非常識だろ」
「不満があるなら面接で言えよ」
「自分で電話をかけてこいよ」

先の2つは、代行業者だからというわけではなく、本人が直接辞退の連絡を入れても向けられたであろう言葉です。こう言われても、代行業者はただ、謝るだけです。悪いことをしているわけではないので、本来謝る必要はありません。しかし、謝ったほうが話はスムーズに進むので、ただひたすらに謝ります。