退職代行業者と弁護士の違い

退職代行を利用する方の「ニーズ」

退職代行業者の他に、法律事務所でも退職代行を行っているところがあります。弁護士が行うわけですから、退職代行業者とは違い法的な交渉もできます。そのため、弁護士が代行する場合には「退職代理」といったほうがより正確なのかもしれません。

退職代行業者に相談して、対応できないと判断した場合は、弁護士に相談するようおすすめします。「だったら、退職代行も業者ではなく、法律のプロである弁護士のほうがいいのか?」というと、決してそうでもありません。

それは、退職代行を利用する方の「ニーズ」にあります。

退職代行を利用する方で、「辞めるときに、大きなトラブルになりそうだから」という方は少数派です。ほとんどが「直接、言うことができない」と悩む気の弱い方で、望んでいるのは、「ただ、会社を辞める」ということだけです。弁護士が必要な交渉を要する依頼者は、多くありません。

残業代の支払いといった当たり前のことを要求するだけなら、退職届に同封する「伝達事項」の用紙に「残業代を払ってください」と書いてもらえば済む話です。労働者本人の申し立てであれば、その書面に強制力が生じますし、従業員による合法的な権利の行使を主張することに対して、頑なに拒む会社はほとんどありません。

そして、有給休暇についても、依頼者が「伝達事項」を通して自分で申請するだけです。

もしも、会社側がまったく対応してくれなかったら、労働基準監督署に通報するといいでしょう。そこまでしてもダメだったら、法的に争うことになり、弁護士の力が必要となるかもしれません。逆に言えば、法的に争うことになってから、弁護士に依頼をしても遅くないということです。

考えてみてください。

ただ会社を辞めたいだけなのに、「弁護士を立てた」となったら、会社側はどう受けとめるでしょうか。会社に対して対立的・攻撃的になっているという印象を与えかねず、「そっちがその気なら、こちらもカウンターパートを用意しなければ!」と身構えさせてしまいます。

弁護士から突然、書面が送られてきたことに人事担当者が逆上し、トラブルになるということもありえます。

弁護士はよく「交渉できるのは弁護士だけだ」と主張します。それはそのとおりで、弁護士はあらゆる法律を駆使して、すべての権利を主張してくれます。それは、大切なことかもしれません。

たとえば、上司のセクハラでうつ病になってしまった人は、社会正義にのっとれば、損害賠償を請求して上司に責任をとらせるべきでしょう。でも、本人にとって何がいちばん幸せなのかはまた別の話です。「とにかく、逃げたい」、「もう関わりたくない」とだけ願う人もいます。

本人の気持ちを考慮せずに「すべての権利を行使するべきだ」という価値観を押しつけるのもよくないし、個人の希望を最大限尊重すべきです。

手軽さとスピード感

もうひとつ、弁護士と退職代行業者の違いを指摘するなら、手軽さとスピード感です。

弁護士の場合、いい加減な仕事をすれば弁護士会から処分を受けたり、個人の評判に関わります(もちろん、代行業者がいい加減な仕事をしていいという話ではありません)。そのため、念入りに打ち合わせをしますので、法律事務所で事前の面談を求められることがあります。スケジュールの都合から即日実施が難しくなり、「手っ取り早く辞めたい」、「すぐに辞めたい」という退職希望者とはマッチングしません。

また、なかなか辞められず、心が弱っている人にとって、約束の時間に法律事務所まで出向き、これまでの経緯を説明する、というのはかなりハードルが高い要件になります。

そして、実際に退職代行業界全体における法律事務所のシェアは非常に低いのが現状です。敷居が低くならない限り、今後も退職代行の中核は退職代行業者が担い続けていくでしょう。弁護士の方が「退職代行には弁護士を使うのが理想だ」というのは、ある一面ではその通りかもしれませんが、理想と現実はやはり違うのです。

緊急事態に備えて、弁護士に依頼するのもありです。

また、弁護士に依頼するケースとしておすすめなのは、代行業者に頼んだけれど、どうしてもうまくいかない場合です。法律事務所のなかには、業者が失敗した場合、料金を割り引くサービスをしているところがあります。

代行業者に不備があった場合は、代行業者に払ったお金も弁護士が回収してくれるという事例もあります。

代行業者に頼むのがいいのか、弁護士がいいのか。両者の違いとご自身の要望に合わせて、選ぶといいでしょう。

ちなみに、法律事務所に退職代行を依頼すると、5万円前後のところが多いようです。そして、「交渉は別料金」と書いてあるので注意しましょう。