ここでは、退職を言い出した後の人間関係についてお話します。
「退職を阻む心理的壁」の「対人関係への恐れ」
「退職を阻む心理的壁」の「対人関係への恐れ」というものがありますが、この心理的壁は、おおむね以下のような思いが原因となっています。
・上司や同僚との関係が良好だったり、仕事仲間に対して感謝や友情を持っている場合、その人たちを傷つけたり失望させるのを恐れている
・辞めることが他の人にとって不都合な状況を作るという思いから、伝えることを躊躇してしまう
・会社の人に対する「世話になった」、「恩を感じている」などの思いがあり、退職を伝えることでがっかりさせたくないと感じている
つまり、「対人関係への恐れ」とは、現在の人間関係を失いたくないという思いから生まれる心理的壁といえます。この、「人間関係を失いたくない」という思いは、短期的なものと、長期的なものがあります。
対人関係の「短期的な恐れ」
対人関係の「短期的な恐れ」とは、次のようなものです。
・「辞める」と口にしたことで、実際の退職日まで職場でいじめられるのではないか?
・「辞める」と伝えたことで、これまで優しかった同僚が、急に冷たい態度になるのではないか?
このように、あなたが「辞める」と口にすることで、あなたが退職する日までの人間関係に不安を覚えるのが、「短期的な恐れ」です。
たしかに、「辞めます」と伝えたあとでも、多くの場合はひと月から数ヶ月は同じ職場で勤務をするものです。だから、「辞めます」と伝えた後、実際に退職する日までの人間関係については不安がつきものです。
対人関係の「長期的な恐れ」
対人関係の「長期的な恐れ」とは、次のようなものです。
・会社を辞めることで、これまでの人間関係がそこで終わってしまうかもしれない
・仕事など関係なく付き合いを続けていきたい人との関係も終わってしまうかもしれない
このように、辞めたあとも続けていきたい関係を失うことの恐れを、「長期的な恐れ」と呼びます。
業務上の人間関係は、「失っても問題ない」場合が多い
会社内で業務上形成された人間関係は、「会社を辞めて失っても問題ない」場合が多いです。
例えば、
・自分に仕事を熱心に教えてくれる恩師のような先輩
・業務がスムーズに進むように、お互いを理解し合っている業務パートナー
・自分がいないと職場になじめない後輩くん
といった人間関係が、あなたの現職場にあるとします。
そして、これらの人間関係のために「辞める」、「辞めたい」といい出せない。
なぜなら、
・心地よい師弟関係のような人間関係があるから
・まさに「あうんの呼吸」で仕事以外のことも理解しあえる人がいるから
・自分が頼られているという感覚が、自己肯定感を産んでいるから
しかし、これらの人間関係はあくまで「業務上」のものです。あなたはその「業務上の人間関係」を維持するために、いうべきこともいえず、自分の大切な時間を無駄にしていいのでしょうか?
あなたが現在の職場に留まるのなら、それは大いに結構です。むしろ、そのような人間関係をもっと活用して、もっと仕事を回し、もっと上を狙っていくなどをすべきでしょう。
しかし、今あなたは会社を辞めることを決めている。たしかに人間関係は人生において重要です。これまで現在の職場で、あなたが仕事をしてこれたのも、人間関係に恵まれていたという部分もあるでしょう。
しかし、その人間関係は「業務上」必要であった人間関係です。
もしあなたが、
・業務外でも今の人間関係が必要だと感じているなら
・会社を辞めた後も、自分にとって必要な人間関係が今の会社にあるのなら
安心してください。
あなたが本当に必要だと感じている人間関係は、あなたが会社を辞めた後も、続くことが多いものです。会社を辞めた後も、あなたがその「必要な人間関係」を維持しようとするなら、その関係は会社外でも続くものです。
本当に必要な人間関係とは、
・どこに所属するのか?
・どの道に進むのか?
などを問わず、続いていくものです。
つまり、「長期的な恐れ」とは、とりこし苦労になりやすいものといえます。
もうひとつ、
あなたが会社を「辞める」、「辞めたい」ということで、職場の人間関係に変化が起こる。これは当たり前です。「辞める」と決めた以上、波風立てずに『スッ』と会社を去ることは諦めるべきです。実際には大したことは起きないものですが、そのくらいの気持ちを持つといいでしょう。
逆に会社を辞めるタイミングで、これまでの人間関係を整理をするくらいのつもりでいることをおすすめします。
あなたが「辞める」ということで、
・これまでとは打って変わって、冷たくなる人
・これまでのあなたとの関係を恩着せがましく訴えてくる人
・あなたが会社を去ることで、疎遠になろうとする人
このような人がもしかすると出てくるかもしれません。
しかし、あなたはそんな人との関係を、この先も続けていきたいと心から思いますか?このような人間関係こそ、「業務上、必要であった人間関係」といえるのではないでしょうか?
「辞める」、「辞めたい」という会社への意思表示とともに、これまでの人間関係を整理する。このような心持ちでいれば、「辞める」という意思表示への心理的壁はかなり低くなります。
特に、これまでの人間関係を整理するという気持ちを持てば、「短期的な恐れ」を克服することができるでしょう。