仕事を辞めたいのに、辞意を伝える気力すらなくなる労働者

仕事を辞めたいに、会社から強引な引きとめにあった、あるいは、引きとめられることが明らかで自分では言えないというケースもあれば、すでに「辞めます」の一言が言えなくなるほどに疲弊してしまっている方も少なくありません。

Fさん(27歳・流通)の場合

短期契約の派遣社員として働きはじめた会社は、社員からのパワハラが横行していました。私自身はときどき怒鳴られる程度でしたが、目をつけられた別の人は「仕事が遅い!」、「そんなんだったら殺されるぞ!」といった怒号を浴びせられていました。
人間として扱われない虚しさと、いずれ、あの怒鳴り声が自分に向けられるのではという恐怖は日に日に増していきました。

Gさん(24歳・小売)の場合

慢性的な人手不足なのに必要な人材を確保せず、それでいて業務拡大路線まっしぐら。明らかに働いている全員がキャパシティをオーバーした業務量を抱えていました。
退職を決めたのは、シンプルにからだを壊したから。毎日毎日、仕事が終わると熱が出るようになってしまったのです。これ以上、ひどくなる前にここから逃げなくてはいけないと思いました。

Hさん(35歳・介護)の場合

入居者からの暴力でからだにアザができるといったことは一度や二度ではなく、上司に相談してもとり合ってもらえない。同僚からは仕事を押しつけられるなどの嫌がらせ。仕事に対して意見を言おうとすると、ケアマネから「世界はあなたを中心に回っているんじゃない」、「リーダーでもなんでもないんだから」と言われ、聞いてももらえない。自分ではがんばってきたのですが、精神的・肉体的にも限界がきたようで、ある日、どうしても出社できなくなっていました。

Iさん(24歳・コンサルティング)の場合

最初は上司のダブルスタンダードな態度への戸惑いでした「わからないことがあればんでも聞いてほしい」と言われ、尋ねると「自分で考えて行動してほしい」と返される。考えた末に報告に行くと、「何を勝手にやっているんだ?!?!」と叱責。こうしたことが2日に1回はあり、ストレスは日に日に溜まっていきました。

ある日、上司がオフィスで小走りに急いでいる僕の姿を揶揄したことが、決定打となりました。周囲が一斉に笑い、ウケたことにご機嫌になった上司は、その場で何度も僕をいじりはじめました。

じつは僕は小・中学時代にいじめにあっていて、上司のこの言動が過去のいじめのフラッシュバックのきっかけになってしまったのです。
それ以降、上司を目の前にすると萎縮してしまい、一言も発せないということもしばしば。突然の高熱を出すようにもなり、友人や家族からも「様子がおかしい」と指摘されて……。この会社で働き続けることは、ゆるやかな自殺行為だと思い、ここにいてはいけないと思ったんです。

Jさん(4歳・介護)の場合

就職するにあたり、できないことははっきり伝えていました。でも、そんなことはおかまいなしで押しつけられ、さらに、クレーム案件や警察沙汰になった案件なども担当することに。精神が疲弊し拒食症になってしまい、体重は2週間で5kgも減りました。また、仕事中に自転車で転んだとき、気づかう言葉は一切なく、「労災扱いにはできない」という冷たい一言だけ。足と腰をケガしてしばらく動けなくなり、この間に辞めるしかない、と決意したんです。

過重労働やパワハラによるうつ病の発症、ひいては自殺などがニュースになると、「そんな会社、すぐに辞めればいいのに」といった声が聞かれます。でも、「辞めます」ということすらできないくらいに、心もからだもすり減ってしまうことがあるのです。